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誰かの見る夢の話

何処の島にいる"ホルス"という名の青年の夢の記憶。
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  • 04/24/12:09

失った記憶・残された記憶

赤子は火のついたように泣いていた。
何かを求めるかのように、何かを後悔するかのように、
何かを悲しむかのように・・・。

宥めても、何をしても赤子は決して泣き止まなかった。

「あ〜っ! もう! 何なんだよ!」

赤子を抱いている男は困惑しきっていた。
何しろ原因が思いつかない。ミルクも飲ませた、おしめも替えたばかり、
それまでは大人しくしていた赤子の変貌ぶりに、心底困り果てていたのだ。

「何か 病気にでもなっちまったのか?
 だと したらちょっと厄介だ。人としての病なのか竜としての病なのか…」

「見た所 病に蝕まれている訳では無さそうじゃが…
 こう 何か違う部分でのナニかというか・・・」

男と共生しているモノも困惑した様子で男に語りかけている。


*********************

何もない闇の中で、ホルスは泣き叫んでいた。

最後のキズナの言葉を聞く事の出来なかった自分が情けなくて。
もう2度と会えぬキズナを想って。

島では平静を装ってはいたものの「喪失」への恐怖に耐えきれず・・・。
 

「世話の焼ける奴じゃのぅ。
 もう少しお前さんはしっかりしとると思っとったが・・・」

闇の中から白いひげを蓄えた老人が現れて、ホルスを見つめている。
半ば呆れた顔をしてホルスの前に歩み寄り、ホルスに語りかけた。

「まぁ お前さんとあの娘の縁は随分と深く結ばれとるのはよう分かった。
 それ程までに互いが互いを好いとる気持ちもな。

 じゃが…
 前の…前世の記憶を持つ事は許されんのじゃよ。
 悪いが、お前さんからその記憶を消させてもらうぞ。」

「嫌だ! 忘れたくない! もう失うのは嫌だ!」


アルシンハから逃げようとホルスは走り出した。
アルシンハは杖をかざして口の中で何やら呪文を唱え、それと同時に杖から蔓が
放たれる。蔦はホルスの足に絡み付いてホルスの動きを封じた。
その場に倒れてしまったホルスは、子供のように泣きじゃくりずっと呟き続けて
いる。

「お願いだから…もうこれ以上奪わないでくれ。
 あの人にもう2度と会えないのに…せめて思い出だけでも…」


「その思い出を持つ事は許されぬのだ。
 持てば 現世でのお主に障りが出てしまう。そうなれば、2度とあの娘とも
 出会えぬぞ。 もう2度とな。」

アルシンハは持っていた杖をホルスの額にかざし、小さな声で呪文を唱えた。
その呪文とともに杖は仄かに光を発し、ホルスの顔を照らす。

「…わ 忘れたく ない…。 き キズナ…の 事…」

そのままホルスは意識を失い、闇の中にその身が飲み込まれていく。
闇の中にはアルシンハ1人が残されていた。

「やれやれ 全く なかなかに手のかかる連中だ。」

杖を持ち直し、ヒゲを一撫ですると老人はゆっくりと歩いて…そのまま
闇の中へと姿を消した。




「… ま どうなるかは 2人次第じゃろうて・・・。」

*********************


♪生まれた 生まれた 何が生まれた
 星がひとつ 暗い宇宙に 生まれた
 星には 夜があり そして 朝が訪れた

 何にもない 大地に ただ風が 吹いてた
 吹いてた 吹いてた……
 

丸一昼夜、泣いていた赤子を抱いて様子を見ていた男は、居間のクッションの
上でぐんにゃりしながら小さな声で子守唄を歌っていた。
腕の中には、ようやく泣き止んで眠っている赤子がいる。

「・・・・・・や〜っと 落ち着いてくれたか。」

大きな溜め息をつき、憔悴しきった顔をして自分の腕の中で眠る赤子を
優しい瞳で見つめながら、静かにその頭を撫でる。

「心配かけさせやがって、こういう手のかかるトコはニオにそっくりだ。
 ・・・カレンの奴は全然手がかかんなかったんだけどなぁ…。」

男は大アクビをして赤子を抱いたままクッションの上にのびてしまい、
そして そのまま赤子と同じように眠りについた。




■6年後■

6年の月日が経った。
赤子…シオンは大きな病気をする事もなく、父母の元で健やかに育っていた。
子供らしく、やんちゃで悪戯好きで…

けれども他の子供とは違う面も持っていた。

外で遊ぶ事も好きな子供だったけれど、それよりも本を読む事に時間を費やして
気がつくと屋敷の書庫に籠って何日も出て来ない事。


カルマートから出た事がないのに、カルマート以外の土地の事を知っている事。


石炭のクレヨンで紙に描くのは、見た事のない怪物、見た事のない土地の風景。
カルマートでは見た事のない衣服を着た人間の絵。
それを見る度に両親は不思議な顔をした。
この子は何処でこんな物を見たというのか? 

でもそれは本で見た物なのだろう。
きっとこの子は想像力が強いのだ そう両親は思っていた。


ある日、家を出ていた娘が帰ってきた。

「カレン・ヌゥト・クサナギ」

シオンの姉、剣士として長く外の国へと冒険に出ていた娘。
シオンの絵を見て一番驚いたのは彼女だった。

「! な なんでシオンが、あの島のモンスターを知っているの?」

カレンは不思議に思いながらも、弟シオンの話を丁寧に聞き弟の問いにも
丁寧に答える。

「これは…偽妖精ね。 シオン あんたこれと闘ったの?
 攻撃を避けまくる嫌な奴だったでしょう?」

シオンもまた姉がこの島の事を知っていると聞いて、姉に様々な質問を
投げかけ、姉の質問に嬉しそうに答えた。

「島は とてもヘンな所だったよ。空が紅くて…火は蒼かった。
 それでね。日にちが経つと、どんどん狭くなったの。

 僕は剣と格闘武器で闘って…サムライっていう力を使えるようになった。
 風と地の力も借りたし…
 武器を作るのと、物と物をくっつける技も使ったかな。」

完全に一致するモンスターと島の法則、そして技能。
カレンはシオンが島に来ていた事は事実だと確信した。不可思議な法則の
ある島だった。招かれていた者達も不可思議な所から来た者達ばかりだった。
言葉では説明出来ないけれど、シオンが体験したと言っている事も
"事実ではない"とは決して言えない。

「父さんと母さんにとっては「夢物語」としか思えないかもしれないけど、
 多分…シオンの言ってる事 ホントの事だと思うわ。
 あんまり軽くあしらわないでやってね。」



シオンが描く絵の中で、一番たくさん描かれていたのは眼鏡をかけた少女の絵。
見た事のない異国の服を来て、獣を従える少女・・・。

「・・・これは誰?」

カレンは不思議そうな顔をして尋ねる。
その質問に、シオンは嬉しそうに笑って答えた。





「この人はキズナ。 

 僕の一番大切な人。 僕だけの人。」



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